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過敏性腸症候群

通勤電車や会議中のお腹の急降下…その腹痛、「過敏性腸症候群」かもしれません。専門医が教える原因と正しい治療法

 

Q1 過敏性腸症候群の原因は何ですか

Answer: 「気のせい」ではありません。脳と腸の誤作動です。

「検査をしても異常がないのに、なぜこんなに辛いのか」と悩んでいる方は非常に多いです。 過敏性腸症候群(IBS)は、日本人の約10人に1人(有病率約13%)が患っているといわれる「国民病」の一つです。決して珍しい病気でも、あなたの精神力が弱いせいでもありません。

最大の原因は「脳腸相関(のうちょうそうかん)の異常」です。 脳と腸は自律神経などを介して密接に情報をやり取りしています(脳腸相関)。 ストレスや緊張を感じるとお腹が痛くなるのは、脳のストレス信号が腸に伝わるからです。逆に、腸の不調は脳に不安感を与えます。 IBSの患者さんの腸は「知覚過敏」の状態にあります。健康な人なら何ともないわずかな刺激や、腸が動くときの収縮運動を「痛み」として脳が敏感に感じ取ってしまうのです。 そこに、働き盛りの世代特有の仕事のプレッシャー、不規則な食生活、睡眠不足、感染性腸炎の既往などが重なり、発症すると考えられています。

当院では、このメカニズムを理解していただくことが治療の第一歩と考えています。

Q2 過敏性腸症候群の症状はありますか?

Answer: 排便で楽になる腹痛と便通異常がサインです。

もっとも特徴的なのは、「お腹が痛くなるが、トイレに行って排便すると痛みが和らぐ(あるいは治まる)」という点です。 また、以下のような症状のタイプ(便形状)によって4つに分類されます。

  1. 下痢型: 突然の激しい腹痛と下痢に襲われます。「通勤電車に乗れない」「会議中にトイレに行きたくなったらどうしよう」という予期不安が強く、ビジネスパーソンに多く見られます。
  2. 便秘型: 腹痛があり、強くいきんでもウサギの糞のようなコロコロとした便しか出ず、残便感があります。女性に多く見られます。
  3. 混合型: 下痢と便秘を交互に繰り返します。
  4. 分類不能型: 上記のどれにも当てはまらないタイプです。

また、お腹の症状だけでなく、頭痛、疲労感、不安感、抑うつなどを伴うことも少なくありません。 「命に関わらないから」と放置されがちですが、QOL(生活の質)を著しく下げるため、高血圧などの生活習慣病と同じく、適切な治療が必要です。

Q3 過敏性腸症候群の診断はどのように行いますか?

Answer: 大腸がんなどの「隠れた病気」を除外します。

IBSの診断において最も重要なのは、「本当にIBSなのか? 他の怖い病気が隠れていないか?」を確認することです。 症状が似ている病気には、大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、甲状腺機能異常などがあります。これらを見逃さないことが、私たち専門医の最大の責務です。

診断には、世界的な基準である「Rome IV(ローマ・フォー)基準」を参考にします。 簡単に言うと、「最近3ヶ月間で、週1回以上の腹痛があり、それが排便に関連していたり、便の頻度や形が変わったりする場合」に疑います。

特に以下のような「警告徴候(アラームサイン)」がある場合は要注意です。

  • 50歳以上で初めて発症した
  • 血便が出る
  • 寝ている間に腹痛で目が覚める
  • 熱がある
  • 半年で3kg以上の体重減少がある
  • 大腸がんの家族歴がある

これらに当てはまる方、あるいは検診で異常を指摘された方は、必ず大腸カメラ(大腸内視鏡検査)や血液検査を行う必要があります。当院では苦痛の少ない内視鏡検査を行っていますので、まずは我々にご相談ください。

Q4 過敏性腸症候群の治療はどのようなものがありますか?

Answer: 食事と生活の改善だけで劇的に変わることも。

治療の基本は、薬を使う前にまず「ライフスタイルの改善」です。 ガイドラインでも、まず患者さん自身が病気を理解し、生活習慣を見直すことが推奨されています。

  1. 食事療法 規則正しい食事を心がけ、暴飲暴食や高脂肪食、香辛料、過度のアルコール・カフェインを控えます。 また、最近注目されているのが「低FODMAP(フォドマップ)食」です。 FODMAPとは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質(小麦、玉ねぎ、豆類、乳製品など)の総称です。これらを控えることで、お腹の張りや下痢が劇的に改善する方がいらっしゃいます。
  2. 運動・生活療法 適度な運動は腸の動きを整え、ストレス解消にもなります。睡眠不足の解消も重要です。
  3. 心理療法 ストレスが強い関与をしている場合、心療内科的なアプローチ(認知行動療法など)が有効な場合があります。

これらを行っても症状が改善しない場合に、次項で解説する薬物療法を行います。

Q5 過敏性腸症候群の薬には何がありますか?

Answer: 腸のタイプに合わせた「特効薬」を選びます。

かつては「整腸剤しか出す薬がない」と言われた時代もありましたが、現在は医学が進歩し、症状のタイプに合わせた非常に効果的なお薬が登場しています。 当院では、患者さんのライフスタイルや便の性状に合わせて、以下のようなお薬を組み合わせて処方します。

①高分子重合体(ポリフル、コロネルなど) 水分を吸収して保持する性質があります。 下痢の場合は水分を吸って便を固め、便秘の場合は水分を保持して便を柔らかくします。下痢・便秘のどちらにも使える、副作用の少ない基本のお薬です。

②消化管運動機能調節薬(セレキノンなど) 腸の動きが弱っているときは活発にし、動きすぎているときは抑えるという「調律」をするお薬です。

③セロトニン5-HT3受容体拮抗薬(イリボー) 主に「下痢型」の方に使います。 ストレスで腸が過敏になる信号(セロトニン)をブロックし、突然の便意や腹痛を抑えます。以前は男性のみでしたが、現在は女性にも使えるようになり、通勤・通学の不安を解消する切り札として重宝されています。

④粘膜上皮機能変容薬(リンゼス) 主に「便秘型」の方に使います。 腸の中に水分を分泌させ、便を柔らかくして排便を促すと同時に、腸の知覚過敏(痛み)を改善する効果があります。腹痛を伴う便秘に非常に有効です。

⑤胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス) 主に「便秘型」の方に使います。 胆汁酸という消化液の吸収を抑え、大腸に届けることで、大腸の水分分泌と動きを促進します。

⑥その他(漢方薬・抗不安薬など) 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)などの漢方薬が著効する場合もあります。また、不安が強い場合には、一時的に抗不安薬や抗うつ薬を少量使用することで、脳の過敏性を鎮めることもあります。

Q6 過敏性腸症候群の予後は?よくなってから再発しますか?

Answer: 命には関わりませんが、気長な管理が必要です。

過敏性腸症候群は、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の病気です。 「一度薬を飲んだら完治して、二度とならない」という種類の病気ではありません。 しかし、大腸がんのように命を縮めたり、手術が必要になったりする病気へ移行することは原則としてありませんので、その点はご安心ください。

治療のゴールは「完全に症状をゼロにすること」ではなく、「症状とうまく付き合いながら、支障なく日常生活や仕事ができる状態(QOLの向上)」に置くことが大切です。 「今日は大事な会議があるから、あの薬を飲んでおこう」というように、ご自身でコントロールできるようになることが理想です。

当院では、あなたが自信を持って社会生活を送れるよう、薬の調整から生活指導まで、長期間にわたり伴走いたします。「お腹が弱いのは体質だから」と諦めずに、ぜひ一度当院にご相談ください。

参考文献;機能性消化管疾患診療ガイドライン2021(日本消化器病学会)

文責:青葉おおしお総合クリニック 院長 大塩 博

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