乳がん
【保存版】しこりは放置厳禁?院長が教える「乳がん」について
Q1 乳がんの原因とリスクはなんですか?
Answer:「遺伝は5~10%程度」生活習慣が鍵です。
「私の家系にはがんの人がいないから大丈夫」と思っていませんか? 実は、遺伝性の乳がんは全体の5~10%程度にすぎません。残りの90%以上は、環境要因や生活習慣が複雑に絡み合って発症します。
日本人女性の9人に1人が乳がんになると言われている現在、誰にとっても「他人事」ではありません。 乳がんの発生には、女性ホルモンである「エストロゲン」が深く関わっています。このホルモンにさらされる期間が長いほど、リスクが高まると考えられています。
【乳がんのリスクが高くなる主な要因】
- 初経が早い・閉経が遅い: 女性ホルモンの影響を受ける期間が長くなるため。
- 出産経験がない・初産年齢が高い: 妊娠・授乳期は生理が止まるため、その期間がない場合はリスクが上がります。
- 授乳歴がない: 授乳はリスクを下げる要因とされています。
- 閉経後の肥満: 脂肪細胞からもエストロゲンが作られるため、閉経後は太っている人ほど注意が必要です。
- 飲酒・喫煙: 毎日アルコールを飲む習慣はリスクを確実に上げます。
もちろん、これらに当てはまるからといって必ず乳がんになるわけではありません。しかし、自分のリスクを知っておくことは予防の第一歩です。 「遺伝ではないから安心」ではなく、日々の生活を見直し、定期的な検診を受けることが、あなた自身の命を守ることにつながります。
Q2 乳がんの初期症状は?
Answer: 痛みがない「石のような硬さ」は要注意!
「痛くないから大丈夫だろう」と放置してしまうのが、乳がん診療において最も危険な落とし穴です。 乳腺症などの良性の変化は痛みを伴うことが多いですが、初期の乳がんは痛みがほとんどありません。
ご自身で胸を触ったとき、梅干しの種のような、あるいは石のような「ゴリッとした硬いもの」を感じたら、すぐに専門医を受診してください。しこりは乳房の外側の上部(脇に近い方)にできやすい傾向があります。
【しこり以外の注意すべきサイン】
- えくぼ症状: 乳房の皮膚がひきつれて、えくぼのようにくぼむ。
- 乳頭からの分泌物: 特に、血が混じったような赤茶色の分泌物が片方の乳頭から出る場合は危険信号です。
- 乳頭のただれ・変形: 乳頭がただれて治らない、あるいは陥没してきた場合。
- 皮膚の赤み・腫れ: 乳房全体が赤く腫れ上がり、オレンジの皮のようになる(炎症性乳がんの可能性があります)。
Q3 乳がんの診断はどのように行いますか?
Answer: 早期発見なら「9割以上」が助かります。
クリニックを受診すると、まず「見て、触れる」視触診を行いますが、これだけでは小さながんは見つけられません。そこで画像検査を行います。 当院では乳腺エコーを中心とした画像検査で診断します。
- 乳腺超音波検査(エコー)線維腺腫の診断において非常に有用です。放射線の被曝もなく、痛みもありません。しこりの内部構造や血流の有無をリアルタイムで確認し、典型的な葉状腫瘍の像であるかチェックします。しかしながら超音波検査だけでは、当院院長はNPO法人日本乳がん検診精度管理機構乳房超音波技術試験A判定を取得しており確実な診断を行っておりますが、良性の「線維腺腫」と区別することが非常に難しい場合があります。画像上はどちらも「つるっとしたしこり」に見えるからです。
- 造影乳房MRI検査. 乳腺超音波検査で「線維腺腫・葉状腫瘍の疑いが強いが、がんも完全には否定できない」場合に行います。造影乳房MRIは感度(癌を癌と判定する能力)が極めて高く少しでも癌が疑われる場合は精検施設にご紹介いたします。
早期発見(ステージ0やI)であれば、9割以上の方が治癒します。「見つかるのが怖い」ではなく「早く見つけて治す」ために、検査を活用してください。
Q4 乳がんの治療方法は?
Answer: 「一人ひとり薬が違う」個別化医療へ。
「乳がんになったら、おっぱいを全部取らなければならない」というのは昔の話です。現在は、根治(完全に治すこと)を目指しつつ、美容的な面や生活の質(QOL)を大切にする治療が標準となっています。
乳がんの治療は、大きく「手術」「薬物療法」「放射線療法」の3本柱で成り立っていますが、最も重要なのは**「がんのタイプ(サブタイプ)」に合わせた治療を行う**という点です。 乳がんは、顔つきや性格によって大きく以下のタイプに分けられます。
【乳がんの主なサブタイプと治療方針】
- ルミナールタイプ(ホルモン受容体陽性): 女性ホルモンを餌にして増えるタイプ。全体の6~7割を占めます。 治療: ホルモン療法(飲み薬)が非常によく効きます。進行度によって抗がん剤を組み合わせます。
- HER2(ハーツー)タイプ: がん細胞の表面にHER2タンパクという増殖因子を持つタイプ。 治療: 「分子標的薬(トラスツズマブなど)」という、がん細胞だけを狙い撃ちにする点滴が劇的に効きます。
- トリプルネガティブタイプ: ホルモン受容体もHER2も持たないタイプ。 治療: 抗がん剤が主役になります。最近では免疫チェックポイント阻害薬なども登場しています。
【手術について】 しこりが小さければ、乳房の一部だけを切除して形を温存する**「乳房温存手術」が可能です。 もししこりが大きく、全摘出が必要になった場合でも、ご自身の組織やシリコンを使って乳房を新しく作る「乳房再建術」が保険適用で受けられます。
このように、治療の選択肢は増えています。私たちは、あなたのライフスタイルや価値観に寄り添い、最適な治療プラン(個別化医療)を一緒に考えていきます。
Q5 乳がんの生存率と予後はどのくらいですか?
Answer: 10年生存率は全体で8割を超えます。
乳がんと診断されたとき、誰もが「死」を意識してしまうかもしれません。 しかし、乳がんはすべてのがんの中でも比較的予後が良い(治りやすい)がんの一つです。
国立がん研究センターなどのデータによると、乳がん全体の10年相対生存率は約87%です。 特に早期であるステージIで見つかった場合の10年生存率は90%を大きく超え、ほぼ天寿を全うできるレベルと言えます。
【予後を良くするためのポイント】
- 早期発見: これに勝るものはありません。検診で見つかるがんは症状が出てから見つかるがんより早期であることが多いです。
- 治療の継続: 特にホルモン療法は5年~10年と長く飲み続ける必要があります。途中でやめずに続けることが再発予防の鍵です。
- 定期的な通院: 治療が終わった後も、定期検査で再発がないか、あるいは反対側の乳房に新しいがんができていないかをチェックし続けることが大切です。
かつては「不治の病」と恐れられたがんも、今は「慢性病」のように、長く付き合いながら管理できる病気になりつつあります。 働きながら治療を続けている患者さんもたくさんいらっしゃいます。 決して一人で抱え込まず、当クリニックスタッフと一緒に前を向いて歩んでいきましょう。
■参考:乳癌診療ガイドライン2025年版 索引(抜粋)
地域医療を担う当院では、常に最新の知見に基づいた診療を行っています。以下は、最新のガイドラインで議論されている主要なトピックです。
- 第1章 疫学・予防
- 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)におけるBRCA学的検査とサーベイランス
- 生活習慣・環境因子(アルコール、肥満、ホルモン補充療法)
- 第2章 検診・診断
- 高濃度乳房(デンスブレスト)に対する超音波検査の併用
- MRI・PET-CTによる病期診断の適応
- 第3章 外科療法
- 乳房部分切除術(温存手術)の適応拡大と整容性
- センチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清の省略
- ロボット支援下乳房手術の現状
- 第4章 放射線療法
- 寡分割照射と加速乳房部分照射(APBI)
- 第5章 薬物療法
- CDK4/6阻害薬の術後補助療法への適応
- HER2低発現乳癌に対する新規抗体薬物複合体(ADC)
- 免疫チェックポイント阻害薬の周術期投与
- 再発予防における内分泌療法の長期投与期間(5年対10年)
- 第6章 サバイバーシップ支援
- 妊孕性温存(将来の妊娠・出産)へのアプローチ
- アピアランスケア(外見の変化への支援)
- 就労と治療の両立支援
最後に:あなたにできること この記事を読んで少しでも「気になる」ことがあれば、ぜひ今週中に一度、ご自身の胸をチェックしてみてください。そして少しでも不安な点があれば、いつでも当クリニックにご相談ください。
文責:青葉おおしお総合クリニック 院長 大塩 博
